東京地方裁判所 昭和41年(ワ)10050号 判決 1967年5月31日
原告 同和信用組合
理由
請求原因事実は当事者間に争いがなく、この事実によれば、被告の抗弁が理由のない限り原告の請求が理由のあることは明らかである。
そこで被告の抗弁について考察するのに、本件手形振出の原因関係が被告主張のとおりであり、この原因関係のラジオキヤビネツトの売買契約について被告主張のとおり商品の不良を原因として契約解除がなされたことは、《証拠》を総合してこれを認めることができる。しかしながら、原告が本件手形を訴外オリエント化学株式会社から隠れたる取立委任裏書によりまたは期限後裏書により若しくは前記原因関係の事情について悪意で取得したとの点については、確かに、本件手形の裏書に原告の名が表われていず、また商手ナンバーが記載されていないことは証人秋葉節一の各証言によつて明らかであるけれども、同証人の証言によれば、商手ナンバーを記載するかどうかは各個の金融機関によつて取扱いが一定していないことが認められるし、証人朴浩吉の証言によれば、本件手形は原告が手形割引によつて取得したものではなく、旧債の支払のために譲渡されたものであつて、数が少ないために商手ナンバーを打たないものであるというのであつてこの証言にも相当の合理性が窺われるので、商手ナンバーの記載がないことと被裏書人として原告の名が記載されていないことを併せて考慮しても、これらのことから本件手形が隠れたる取立委任の趣旨で原告に譲渡されたものと認めるのに充分ではなく、またこれらの事由によつて本件手形が期限後の裏書により原告に譲渡されたものと認めるのにも充分ではない。
次に、《証拠》によれば確かに訴外オリエント化学株式会社の代表者松田学は大同信用組合の理事長という肩書を付した名刺を用いていたことが認められ、同人が原告と同種事業を行つている信用組合に関係していたものと推察されるのであるが、このことによつても原告が本件手形の原因関係についての前記事情について悪意で本件手形を取得したるものと認めるのに充分ではない。
そして、ほかには、原告が被告主張の抗弁事由の対抗を受けるべき事由の存在を認めるのに足りる証拠はなく被告の抗弁は採用できない。
よつて、原告の請求を認容すべきである。